イーロンマスクが取り組む、電脳化。
当ブログが記念すべき第1回目に取り上げるのは、イーロン・マスク氏が手がける中で最も新しく、2017年に立ち上げられた「Neuralink(ニューラリンク)」と呼ばれる企業と、そのプロジェクトについてである。
写真:Neuralinkについて語るマスク
「最高の経営者」イーロン・マスクとは
はじめに、イーロン・マスクのことを知らない人に向けて彼のことをざっくり紹介すると、
- 10歳でプログラミングをマスター
- スタンフォード大学院を2日でやめて起業
- オンライン決済サービス「Paypal」の前身である「com社」を創業
- 火星移住を目的に設立された宇宙開発事業の「スペースX社」創業
- 電気自動車開発事業の「テスラ・モーターズ」創業
- 太陽光発電事業の「ソーラーシティ」創業
- 電脳開発事業の「Neuralink(ニューラリンク)」立ち上げ
というあらゆる分野で世界を変えようとしている人物である。
彼が創業した「Paypal」からはYoutubeの創業者やLinkedinの創業者などが輩出されたほどだ。
新しい挑戦「Neuralink」とは
そんなマスク氏が、今年正式に関与を認めた(それまで関与についてコメントを控えていた)「Neuralink(ニューラリンク)」という会社について説明したい。
以下、WIREDからの引用である。
『Wall Street Journal』によると、Neuralinkはカリフォリニア州に拠点を置く医療研究企業。頭蓋内コンピュータを使った病気の治療を主な目的としている。すでに神経科学を代表する複数の研究者を採用しており、そのなかには汎用性電極やナノテクノロジーの専門家ヴァネッサ・トロサ博士や、マスク氏が出資している人工知能(AI)関連のカンファレンスにも出席したカリフォリニア大学サンフランシスコ校教授のフィリップ・セイブス、ボストン大学で鳴禽類の脳における神経回路を研究する教授ティモシー・ガードナーといった権威が名を連ねている。
元記事はこちら↓
彼はこの会社の立ち上げに参加し、同社CEOへの就任も決まっている。
この会社のやりたいことは、
「脳とコンピュータを繋いで、病気を治療する」
というものだ。
写真:Linked in
しかし彼が見ている電脳の世界は単に医療分野にとどまらず、その先の超人類の誕生である。
実は、彼は今まで急激な進化を遂げるAIに対して「人間に戦争を仕掛け、終焉をもたらすだろう」と懸念を表明してきた。最近だとAIの発展について楽観視するFacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグとの舌戦を繰り広げたのが話題になったばかりだ。彼は立ち向かうべきとするAIに対して、人間の頭脳も高めていくことで「AIに追いつき、追い越せ」という考えなのだ。
そこで彼は、Neuralinkという会社を立ち上げ、人間の脳とコンピュータを「Neural lace(神経の紐)」と呼ばれるデジタルレイアで繋ぐことで、思考をコンピュータにダウンロードしたり、逆にコンピュータから脳へアップロードしたりすることができる世界を目指している。また、これが実現すると最終的には脳で考えたことを言語化せずにダイレクトに伝達することも可能になるという。彼の持つビジョンは自分の思考を言語へ転換し、それを言語の受け手が理解する際に常に情報が欠落するプロセスを無くすことなのだ。
引用:NeuralinkのHP。エンジニア等の募集を行っているようだ。
2017年2月にドバイで開かれた世界政府サミットでマスク氏は、米誌『Vanity Fair』に対して、次のように語っている。
「わたしたちはすでにサイボーグです。電話やコンピュータは、指の動きや発話といった(反応が)非常に遅いインターフェイスを介しているとはいえ、もはや人間の拡張機能というべきでしょう」
つまり、彼は読者の皆様がこの記事を拝読するのに使っているそのスマホやパソコン、その延長線上に電脳があると考えているのだ。
ただし、Neuralinkはこれを最初から一般向けに提供するのではなく、まずは“てんかん”やうつ病、パーキンソン病の症状に対処することを目標としており、その旨をサイトでも述べている。その方が人間を相手にした臨床試験に対する規制当局からの許可が得やすい可能性があるからだ。
彼は電脳化を、
「レーシック手術くらい手軽で安価なものにしたい」
と語っている。
Neuralinkの課題とは
しかしそれにしても、この脳の一部を補完する技術の実現までには4年から5年、障害のない人が利用するまでには8年から10年はかかるだろうと言われている。これは彼がスペースX社で行っている火星への到達よりも時間のかかる事業なのだ。(スペースX社やその事業についてはまた別の回でお話しする。)
また、このプロジェクトはいくつか問題を抱えている。
一つ目はNeuralinkも競合他社(Braintree創設者Bryan Johnsonが創業した1億ドル企業「Kernel」や、「脳-コンピュータ間インターフェイスエンジニア」の採用募集をかけるFacebook、脳埋め込みチップで精神疾患と神経障害の治療を行なう研究を推進中のDARPA等)も安全に埋め込めるチップを開発しなければならないということ。
さらにそれを頭に埋め込む被験者も探さなければならない。今まで人工心臓など体内に機械を埋め込むことは行われてきたが、脳へのアプローチは前例がないだけに実験までの道のりはかなり険しい。
人体への実験の前段階でネズミ等への実験が行われるのだろうが、その際にネズミが高度な頭脳を持って人間に反旗を翻す…。なんて可能性も否定はできない。
二つ目は電脳を備え、コンピュータ並みの知性を持つ人間が持たざる者を支配する立場に立つということ。
そしてその知性を手に入れられる者は電脳を買えるだけの富裕層であるということ。マスクのNeuralink立ち上げの発表を受けてCNBCは、「金持ちばっかり頭がよくなる」未来に警鐘を鳴らしている。「金持ちのバカ息子」も「貧民の革命児」も生まれない。頭の良い者が富み、悪い者は貧しい生活から這い上がれず、貧富の差がどんどん拡大していく世の中になってしまうかもしれない。
三つ目は「人の定義」の問題である。よく映画で取り上げられる話題ではあるが、見た目も構造も話も人間と同じロボットが人間と何が違うのか、ということ。
「感情」があることが人としての定義なのだとしたら、脳が機械に近いもの(性能はもちろん、合理的な思考も)になったら、非合理的な“人情”のようなものはなくなってしまうのか。
など、電脳化の実現によって引き起こされる可能性のある不安な点もいくつか挙げられたが、何も悲観的になることはない。2017年春に公開された「ゴースト・イン・ザ・シェル」の世界の実現はもうあと少しのところまで迫っている。彼が掲げるのはAIに負けない人類の進化。Neuralinkは脳とコンピュータの接続によって今の人間のあり方を大きく変え、我々を驚かせてくれるに違いない。
次回予告
次回はマスク氏が2016年に設立したボーリング・カンパニーの掘削事業について掘り下げる(ギャグではない)。地下トンネルを使って渋滞問題を解決する、という彼は、一体どのようなプロジェクトを掲げるのか。
お楽しみに!
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