世界最高の起業家、イーロン・マスクの挑戦。

「世界最高の起業家」と謳われるイーロン・マスク。彼が挑戦する革新的なプロジェクトを10回に渡り、研究します。

マスクの掲げる火星移住計画とその課題

2001年、彼は「火星に人を送り込む」という目標を胸にペイパル社時代に積み上げた財産でスペースX社を設立した。

 

当時のことをマスクはこう回想する。

 

アポロの月面着陸ミッションが成功してから、なぜ人類は火星にまだ行っていないのか、あるいは月より遠くに全く行っていないのかと、考えている自分がいました

 

今ごろ火星に到達していてもいいはずなのにと、いつも感じていました。月に基地があってもいいのに、宇宙ホテルとか、その他いろんな物があってもいいのにと

 

かつては、その意志がないからだろうと推測していました。が、そうではなかったのです

 

ついに残すところあと2回となった。第9・10回目はマスクの最大の野望である「火星移住計画」を実現するための企業「Space X(スペースX)」について見ていく。

 

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火星への夢

 

2016年9月27日、航空宇宙の分野で今年最も期待されていたであろう発表がなされた。彼が、火星に居住地を建設するという壮大な計画を明らかにしたのだ。

 

計画を簡単に要約すれば、地球と、隣のやや小さな惑星との間で数千人を輸送する事業を、今後10数年以内に始められるとマスク氏は考えている。さらにその後、おそらく40年から100年後には、火星に100万人が暮らす自給自足できる居住地を建設することを目指すという。

メキシコ・グアダラハラで開かれた国際宇宙会議(IAC)で彼は

 

全員が火星に移り住むということではありません。人類が多惑星種になるということです

 

と語った。それは我々からすればとても無謀な計画にみえる。その点は本人も進んで認めている。

 

かつてNASAの主任技術者を務め、現在はジョージア工科大学で教えるボビー・ブラウン氏は、

「計画の技術的な概要はおおむね正しいと思います。マスク氏はこの計画を簡単だとか、10年以内にできるなどと装ったりはしませんでした」

と評する。

なぜ地球をもっと人間の住みやすいように変える前に火星に行くべきなのか、疑問に思う人もいるだろうが、彼が火星を不可欠と考える理由はシンプルだ。

 

人類の未来は基本的に、2つに1つです。多惑星に生きる種になり、宇宙を飛び回る文明人になるか、1つの惑星にしがみついたまま、何らかの惨事を経て絶滅に至るかです

 

彼は正確なスケジュールはまだ決まっていないと認めつつ、2020年代半ばまでには火星への飛行を始められると考えている。未来の火星への飛行についての動画が当社から発表されているのでぜひ見ていただきたい。

 


動画で確認できるように、使われるのは組み立てると少なくとも60メートルになるという、とてつもなく大きなロケットだ。Space Xが「惑星間輸送システム」と呼ぶ仕組みのシミュレーションでは、幅12メートル近くもあるロケットブースターの先端に、飛行士を乗せた宇宙船が取り付けられ、桁違いの推力で宇宙空間に発射される。42基のラプターエンジンを使い、ブースターは時速8648キロまで加速する。

 

NASAがこれまで製造した中で最大のロケットは、アポロ計画で飛行士を月に送ったサターンVだが、当社のロケットは全体でその3.5倍も強力になる。しかも、発射台もアポロ計画と同じフロリダ州ケープカナベラル、ケネディ宇宙センターの39Aだというのは、おそらく偶然ではないだろう。

 

クルーが乗った宇宙船部分が地球周回軌道に入ると、ブースター部分は自力で方向を制御して、元の発射台に軟着陸を果たす。この離れ業を、スペースXのロケットブースターは1年近く前から成功させている。

 

ロケットの再利用

 

実際、今年に入ってからも当社は3月30日、打ち上げ後に回収したロケットの再利用に成功。ロケットの再利用で宇宙への輸送コストを大幅削減するという同社の構想が実現可能と立証した。彼は同日、 


ここまでに15年かかった。宇宙飛行の革命だ」 


と興奮しながら語った。ロケットは機体が打ち上げコストの約8割を占める。当社はロケットの回収・再利用によって打ち上げ費用を従来の100分の1とする構想を2002年の設立以来掲げていた。現在すでに同社のロケットの燃料タンクは数千回、エンジンは少し補修すれば100回以上の再利用に耐える設計になっている。

 
f:id:rafld9817:20170811172720j:plain 当日打ち上げられたロケット。
 
また6月24日から26日の2日間には、2機の「ファルコン9」ロケットの打ち上げた。

 

24日に打ち上げたのは、今年1月にも打ち上げた機体を再使用したもので、同社にとって2度目のロケット再使用となった。26日の機体は新品だったものの、着陸時に使用する小型の安定翼に、耐熱性などが向上した新型のものが装備された。打ち上げはともに成功し、さらに海上に浮かんだドローン船への着地にも成功した。 

 

現時点での第1段機体の再使用による値下げについて「最大で30%の割引が可能」と言われているが、いずれにしろスペースXが掲げている「100分の1」という目標にはまだ届いていない。

 

話を戻そう。火星に向かうルートに入ると、宇宙船はソーラーパネルを広げて太陽からエネルギーを集め、貴重な推進剤を温存する。彼の構想では、クルーを乗せた宇宙船団は地球と火星が互いに近づく位置関係になるまで地球軌道にとどまる。ちょうどよい配置になるのは26カ月に1度だ。

 

やがては、1000を超す宇宙船が軌道上で待機することになるでしょう。そして、火星移住船団が一つになって目的地を目指します

 

と彼は語る。計画の鍵は、前述した通りさまざまな宇宙船をできる限り再使用することだ。彼は

 

再使用ができない状態で、自立した火星基地を作る方法があるとは思いません。昔の木造帆船が1回きりの使い捨てだったら、今の米国は存在していないでしょう

 

と述べる。彼は各ロケットブースターは1000回、タンカーは100回、宇宙船は12回使えるようにしたいと期待している。不確かではあるが、初期には宇宙船1機に100人が乗り、200人超まで徐々に増やしていく構想だ。

 

そうすれば、計算では最初の宇宙船打ち上げの後、40年から100年で100万人が火星に住むようになる。

もちろん、必ずしも片道の旅ではない。

 

帰還という選択肢を人々に用意するのはとても重要なことだと考えます

 

と彼は述べる。マスク氏によれば、まず2018年に予定している「レッド・ドラゴン」を皮切りに、貨物を積んだ無人宇宙船数機を火星に着陸させる。その後、人が移住する段階へ移るという。

 

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しかし彼は今年の7月、ISS R&D 2017のカンファレンスにて、火星着陸に利用するレッドドラゴンの利用中止を示唆した。
 
このレッド・ドラゴンによる火星探査では、宇宙船が「SuperDraco」という名のエンジン出力により、ゆっくりと火星に降下する「Propulsive Landing」という技術が利用される計画だったのだが、彼は

 

ずっといい方法を思いついたんだ。それを次世代のロケットと宇宙船で試すよ

 

とカンファレンスにて明かし、後のツイートで

 

Powerd Landing(Propulsive Landing)はより大きな宇宙船で試すつもりだ

 

と述べている。

 

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火星移住の大きな課題

 

薄い大気しかない惑星に重い宇宙船を着陸させるのは間違いなく困難が伴う。

NASAの火星探査車キュリオシティは重量約900キロと、彼が提案する宇宙船よりずっと軽かったにも関わらず、ゆっくりと地表に降下させるのは簡単ではなかった。今のところ、彼は再利用可能な自社のブースター「ファルコン9」をモデルとして使いながら、超音速逆推進ロケットの開発を続ける計画だ。

 

これにより、キュリオシティよりはるかに重量のある宇宙船を、火星の表面にゆっくりと安全に降ろすことを目指す。 

 

しかし、宇宙船に必要なのはこれだけではない。

超音速で火星大気の中を進むのは、地球で最も耐熱性に優れた素材でも大きな試練となる。

したがって、高熱の大気突入と逆噴射の着陸に耐えられる宇宙船を設計するのは、決してたやすい仕事ではない。

しかも、宇宙船は燃料を補給して地球に戻り、繰り返し使用されるのだ。火星への最初の旅は物資を届け、推進剤貯蔵施設を火星の表面に設置することが主な目的になるだろう。そのため、惑星間宇宙船も火星に留まり、運ぶのは大半が貨物と燃料、そして少数のクルーになると予想される。加えて初期段階の移住者たちは、火星の表面を掘り進めたり、埋まっている氷を探し出したりするのに長けている必要がある。氷からは貴重な水が得られるほか、移住事業を支える低温メタンの推進剤を作るのにも使えるからだ。

 

次回予告

 

次回で最終回。引き続き「Space X」について述べていく。

 

 

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