イーロンマスクの目指す、渋滞のない世界。
第2回目に取り上げるのは、2017年7月20日にマスク氏がTwitterで情報を更新した、
「ハイパーループ計画」
を掲げる「The Boring Company(ボーリングカンパニー)」と呼ばれる企業と、
そのプロジェクトについてである。
写真: boringcompany
「ハイパーループ計画」とは
それは、2013年の8月にマスクが突然発表した新しい交通システム構想である。
仕組みとしては、減圧(もしくは真空)されたチューブの中を乗客を乗せたカプセルが高速で行き交うというもの。
チューブ内の“ポッド ”と呼ばれるカプセル型の乗り物が太陽光発電(これについてもこのブログで紹介する)を利用した電磁パルスを推進力として、時速800マイル(=1287km)で走る。
これはロサンゼルスーサンフランシスコ間(600km)をわずか30分で結ぶ速さだ。
マスク氏はこの計画を長い間身内にしか話していなかったのだが、ある問題が原因で発表へと発表するに至った。
それはカリフォルニア州が進める高速鉄道計画のコストの高さとスピードの遅さである。
州の計画によると、当高速鉄道はロサンゼルスーサンフランシスコ間を2時間半、車で走っても5時間かかる距離になり、その制作費用は600億ドルにも及ぶという。
一方でマスク氏の提案するハイパーループだとスピードは上記の通り、コストも60億ドル(州の高速鉄道の10分の1)に抑えられる。
以下は、『イーロン・マスク 未来を作る男』からの引用である。
当時 、マスクがハイパーループ構想を披露してみせたのは 、一般の人々や議員に高速鉄道の再考を促したかったからだ 。実際に実現する気はなかった 。
課題の解決や前進につながる独創的なアイデアはいくらでもあることに気付いてほしかったのだ 。うまくいけば高速鉄道は中止になる 。構想の発表に先立ってマスクはこんなふうに語っていた 。
「将来的にハイパーループプロジェクトに資金を出したり 、助言したりすることはできる 。でも今はスペースXとテスラから片時も目を離すわけにはいきません 」
(中略)
あちらこちらから説明やコメントを求められているうちに 、マスクは構想を実現させようと決心する 。少なくとも技術の実証実験として試作品開発を検討していると報道陣に語った 。
ボーリングカンパニーの設立
そして彼はついに2016年、トンネル掘削企業であるボーリングカンパニーを設立。
彼は2016年の12月に「渋滞には本当にイライラさせられる。俺はトンネルの掘削マシンを開発して、すぐにでも穴掘りに取りかかりたい」と述べていた。
この発言は当初、ただの冗談だと思われていたが、今年の雑誌「Bloomberg Businessweek」の記事でマスクはその実現に向けての意欲を語った。ただし、そこにかかるコストや彼が一体どの程度の資金を投じるかはまだ明かされていない。
引用:Forbesjapan
その目的はもちろん、交通渋滞を軽減するための地下トンネルを掘ること。
しかし、現在の掘削機の技術ではカタツムリの14分の1のスピードでしか掘り進めることができない。したがって当初の課題はカタツムリに勝つスピードの掘削機を手に入れ、地下トンネルを構想することであった。
その後、マスクは“ナニー”と呼ばれる全長122m、重量1,200tの掘削機を入手し、彼がカリフォルニア州に設立したスペースX社の駐車場地下で実際に試験走行用の道路を建設していた。
が、2017年6月29日、彼は
「もう待つ必要はない。GodotはLAにトンネルの最初のセクションを掘り進めた」
とツイートし当社が開発した巨大な掘削機を始動させたことを明らかにした。
彼はその2週間ほど前に、ロサンゼルス市長と会談を持ち「有望な会話ができた」としていたが、LAの地下に穴を掘り進める正式な許可が出たかどうかは明らかにしていなかった。しかし今回のツイートで掘削の開始を報告するということは、少なくとも必要な公的手続きは進んでいると考えられる。
写真:The boring company
実現に向けて大きな一歩へ
2017年4月28日、衝撃の出来事が起こった。
まずは下の動画を見て欲しい。
これはマスク氏がカナダのバンクーバーで開催されたTEDカンファレンスの場で発表したハイパーループ計画の新しい概要である。
彼はスペースXやテスラについての近況報告を述べた後、このトンネルプロジェクトのデモ動画を披露した。
この動画では、渋滞の道路を走行する車が路肩から車ごと専用のエレベーターで地下の高速道路に運ばれ、時速約200kmで走行する様子が紹介されている。
道路の路肩にある専用の駐車スペースから地下に降りる。
台に乗ったまま移動するため運転の必要はないようだ。車の下にある金属のレールは
以前構想段階でマスクが言っていた電磁パルスだろうか。
動画内ではガラス張りの車の様子も見られる。地下空間を走る新しい公共交通機関か。
動画の最後には地下に何層にも張り巡らされた3Dトンネルネットワークの様子が映し出された。
ボーリングカンパニーHPに載っている新しい公共交通機関の写真。車内には自転車らしきものも見える。入り口が見つからないがどういう仕組みなのか。
写真:The boring company HP
彼によると、この地下道はカリフォルニア州ロサンゼルスの地下をモデルにしているらしい。
続けて彼は聴衆に向けて、
「LAの地下に巨大な穴を掘って、渋滞緩和のための3Dトンネルネットワークを構築する。このシステムを使えば、ウエストウッド地区からLA国際空港まで5、6分で移動できるようになる」
と述べた。
写真:TED
マスクは最終的に自動車と列車が利用できる上下30レベルにも上るトンネルネットワークを構想している。彼が提唱する真空チューブ輸送―Hyperloop―ももちろん候補の一つだろう。マスクのビジョンは、現在のように地表に縛られた2次元ではなく、上下に自由に交差可能な3次元の地下交通システムを建設することだ。
都市交通の3次元化を進める上での選択肢はもう一つある。上空だ。UberやAirbusは「空飛ぶオンデマンド・タクシー」の構想を追求している。これも地上の渋滞を避ける有力な方法だろう。しかしマスクは安全性、実現性、輸送力、あらゆる面で空を飛ぶよりトンネルの方が有利だと考えている。
同氏はTEDで、なぜ“空飛ぶ自動車”ではなくトンネルなのかという質問に、「私はロケットも作っているから飛ぶのは好きだが、空飛ぶ車は非常にうるさいという問題がある」と答えた。
彼はツイートで、ニューヨークとDCをつなぐプロジェクトも並行して進めていくと述べた。さらに、その先にはLAとサンフランシスコを結ぶ計画やTX loopと呼ばれる構想もあるという。
スペース X社の付近で既に実現に向けてテストトンネルを掘削中であり、その開発を担うのはスペースXでシニアエンジニアを務めるスティーブ・デイビスという人物。
しかし多忙を極めるマスクは、TEDの会場でトンネルプロジェクトに対し、「自分の使える時間のうち2〜3%程度しか注げていない」とコメントしている。
当初の構想から大きく形は変えつつも、いよいよハイパーループ計画実現に向けてボーリングカンパニーは動き出した。トンネルの掘削・交通システム開拓には莫大な資金と時間がかかると予想され、その調達方法などまだまだ課題も多く残るが、今後の動向に注目したい。
次回予告
次回は彼が地球環境保護のために掲げる『持続可能なエネルギーの実現』を具体化した
「Solar City」という企業について取り上げたいと思う。
お楽しみに!
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