発電した電気を自動車に。
第4回目となる今回は前編に引き続き、マスクの手がけるエネルギー開発事業、SolarCityの買収と、今後の動向について詳しく見ていきたい。
SolarCity、買収
そして2016年6月、彼はSolarCityに対してある提案を持ちかけた。
TeslaによるSolarCityの買収だ。
前に述べたようにSolarCityの課題は安定供給と低価格化だった。
当社は2012年時点ですでに赤字体質となっており、価格設定を頻繁に変更するなど黒字化には苦労していた。
さらに2016年には数百万ドルの損失を出し続け、株価の評価も下がっていたのだ。そのため、Teslaが買収するには比較的簡単になった。
その場合、当社の時価総額である21億4000万ドルから21%から30%の上乗せ価格での買収となる。つまり、TeslaはSolarCityを25億9000万ドルから27億8000万ドルの間で買収する計算だ。
実際SolarCityの株価は買収提案の発表後、20%跳ね上がった。SolarCityのバリューに対する上乗せ分は、発表後数時間で随分と少なくなったことを意味する。
その一方でTeslaの株価は時間外取引で13%下がった。この買収案件は、SolarCityの救済措置だと考える人もいるからだ。Muskが保有する22.2%の株は、Teslaが買収することで救済される。今日の発表があるまで、SolarCityの株価は昨年12月より50ドルも値を下げ、21ドル付近を推移していた。このまま株価が下がり続ければ、Muskは多額の資金を失う。Teslaは自分たちでソーラービジネスを構築することもでき、株価がさらに下がるようならその時にSolayCityの資産を買収することもできる。
しかし、そうすると二つの企業を掛け持ちするMusk自身の資産が何千万ドルと目減りすることになってしまうのだ。
つまりなるべく早い段階での買収提案は彼にとって合理的な判断だと言える。
Musk、そしてTeslaとSolarCityのどちらでも役員を務めるAntonio Graciasは買収提案に関する決議には参加しない。Teslaは、乗っ取るのではなく、あくまで友好的に買収を進めたいと伝えた。
そしてその年の11月、ついに買収が決定した。
買収の正式決定に際し、Teslaは簡単なコメントを発表している。
TeslaによるSolarCity買収が今朝正式に決定し、それを皆様に発表できたことを私たちは嬉しく思います。
マスクが今年6月にこの買収を提案して以降、彼は頻繁にSolarCity買収の重要性を主張してきたことを踏まえると、このコメントは簡潔かつ控えめなものだと言えるだろう。この2社の統合は、消費者にエネルギーの生産方法、貯蓄方法、そして消費方法のすべてを提供するというMuskの「マスタープラン」を実行するうえで欠かせない要素だった。
このマスタープランは、彼が目指す世界を実現するために、彼の会社(SpaceXやTesla)を通して実行するべき計画のことだ。
最初のマスタープランは2006年に公開された。その内容は、
採掘しては燃やす炭化水素社会から、私が主要な持続可能ソリューションの1つであると考えるソーラー発電社会へのシフトを加速すること。
具体的には
-
スポーツカーを作る
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その売上で手頃な価格のクルマを作る
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さらにその売上でもっと手頃な価格のクルマを作る
-
上記を進めながら、ゼロエミッションの発電オプションを提供する
- の4つである。
そしてその10年後、彼は新しくマスタープランのパート2を発表した。
それが以下の通り。
バッテリーストレージとシームレスに統合された素晴らしいソーラールーフを作る
すべての主要セグメントをカバーできるようEVの製品ラインナップを拡大する
人が運転するよりも10倍安全な自動運転機能を開発する
クルマを使っていない間、そのクルマでオーナーが収入を得られるようにする
そしてそこでも彼は彼の目指す壮大なビジョンを次のように語った。
私たちが目指しているのは、今も昔も変わらず、持続可能エネルギーの台頭を加速し、未来の良い生活を守ることです。それが「持続可能性」の意味するものです。突飛なヒッピーの間だけのものではなく、すべての人に関わることです。
原則として、私たちがどこかの時点で持続可能なエネルギー経済を達成しなければ、化石燃料を燃やし尽くし、文明は崩壊します。いずれにせよ化石燃料への依存を断たなければならず、ほぼすべての科学者が大気中と海中の炭素レベルを大幅に増やし続けることは狂っているということに同意していることを踏まえると、持続可能性を達成できるのが早ければ早いほど良いということになります。
だからこそ今回のSolarCity買収がなされなければならなかったのだ。
バッテリーとソーラーパネルをスムーズに統合した、美しく、間違いなく機能する製品を作ることで、一人ひとりが自分の電気を作れるようにし、それを世界規模で展開します。注文、設置、サービス契約、スマートフォンアプリはすべて一元管理します。
これはテスラとソーラーシティが別々の会社であったならば上手く行きません。そのため、私たちはこの2社を統合し、別々の会社であるためにできる壁を壊す必要があります。この2社が、同じような起源と、持続可能エネルギー経済を達成するという共通の重大な目的を持つにも関わらず別々の会社であるのは、歴史の偶然によるものです。テスラがPowerwallを大量生産し、ソーラーシティが高度に分化したソーラーを提供できるようになった今こそ、この2社を1つにする時です。
彼は、このTeslaとTesla Energyに加え、SolarCityの太陽光パネルのビジネスを統合することで、
「太陽光発電(SolarCity)→蓄電(Tesla Energy)→利用(Tesla)」
という太陽光をベースにしたend to endの「クリーンエネルギーの垂直統合サービス」を一社で実現しようとしている。
電気自動車Teslaという川下からスタートし、Tesla Energy、そして太陽光発電のSolar Cityと、一社でクリーンエネルギーのエコシステムを作り上げることができるようになるのだ。
自宅に太陽光発電パネルを設置し、Powerwallのバッチリーがあり、そこから充電したTeslaSで仕事に向かう。「個人利用」としても十分に価値のあるプラットフォームとなると思うが、多くのTeslaユーザが連携して「スマートグリッド的」に活用するという世界がすぐに来るだろうと考えている。
今でもTesla自身が設置した充電ステーションを利用することにより全米横断も可能だが、PowerwallがIoT化し、ブロックチェーン対応すれば、TeslaSの充電が必要というときに、近くにあるPowerwallとTeslaSがスマートコントラクトを結び、代金を支払い、充電を行うということが可能となる。Teslaユーザ全体がIoTでネットワーク化され、需要と供給に応じて電力を融通することができるのだ。
写真:Tesla HP
先日、Teslaは屋根に取り付けるソーラーパネルをローンチしている。マスクにとって、電力をクリーンな方法で発電することと、その電力を使用した電気自動車をつくることは、本質的には同じことなのだろう。全体の二酸化炭素排出量を減らすうえで、低コストでクリーンな発電方法を普及させることは、クリーンなクルマをつくることと同じくらい重要だ。それを踏まえれば、彼のその考えは筋の通ったものだと言える。
Teslaは、この買収の理由が理にかなっていることを以下のように説明する。
「私たちはカスタマーに一貫したクリーンエネルギーのプロダクトを提供する世界で唯一の垂直統合型のエネルギー企業となります。カスタマーが運転する車から始まり、それを充電するためのエネルギー源の確保、そして自宅や会社の電力の全てを賄うまでが完結します。Model S、Model X、Model 3、ソーラーパネルシステム、パワーウォールの全てが揃うことで、エネルギーを最も効率的で持続可能な方法で配分し、消費することができるようになります。カスタマーのコストが下がり、従来の石油燃料や電力網への依存を最小限に留めることができます」
そして、新しいエネルギーシステムへ
SolarCityの設立、TeslaEnergyの立ち上げ、そしてSolarCityの買収を経て、マスクは新しいエネルギーシステムの開発を成し遂げようとしている。
その後、Teslaが新しく開発した強化ガラス製のソーラールーフは通常の3倍の強度を誇り、電力も30年保証。しかも個々のエネルギー需要に応じて発電量をカスタマイズできるという。しかも自宅の外観に合わせたソーラーパネル(まさに「屋根」と呼ぶにふさわしいデザイン)なのである。
写真:Tesla HP
統合後はSolarCityが採用していた初期費用無料、月額固定制のビジネスモデルをやめ、従来の買い切りのモデルに変更した。
確かにその優れたデザインやTeslaの他製品との共有が可能という点では(特にTesla製品のユーザーにとって)非常に有用であるが、太陽光発電・その蓄電だけに着目すると、まだ他社製品と比べて値段が安いとは言えない。
それでも彼が目指す、消費者の手に届きやすいエネルギー開発もあと少しのところまで来ている。低価格化は常に課題となるだろうが、発電・蓄電・使用を一括化したTeslaが今後どこまで消費者の使いやすいエネルギーシステムを開発できるのか、期待したい。
次回予告
次回はついに、今まで何度も話の中で登場し、 彼が最高の経営者と呼ばれる所以はこのにあると言っても過言ではない「Tesla」という企業、そして当社が目指すビジョンについて数回にわたり、見ていきたいと思う。
ではまた。
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