世界最高の起業家、イーロン・マスクの挑戦。

「世界最高の起業家」と謳われるイーロン・マスク。彼が挑戦する革新的なプロジェクトを10回に渡り、研究します。

人工衛星によるグローバルネットワークの形成。

最終回となる第10回は前回に引き続き、Space X社の火星移住の課題と、当社が手がけるもう一つの事業について述べていく。

 

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火星への過酷な道のり

 

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火星行きミッションに参加する最初のメンバーの座をめぐっては、激しい競争が繰り広げられることが予想されるが、彼は、「初めて刻まれる足跡」に過剰な注目が集まることを懸念する。

 

より広い歴史的文脈の中で本当に大事なのは、多数の人々。数十万とはいかないまでも数万人を送り込み、最終的に数百万トンの貨物を届けられることです

 

と言う。

 

私は最初の数回よりも、むしろそちらをずっと気に掛けています

 

つまり、火星に居住地を建設するという彼の構想は長期的なものであって、一回性のものではないということだ。

 

当社は現在、民間のクライアントや米国政府と契約して国際宇宙ステーションISS)に人を輸送できる宇宙船「ドラゴン」の最新版を開発している。

 

この数年、スペースXは多くの成功例で注目を集めてきた。例えば完全には軌道に入らなかったが、再使用可能なロケットの一部を切り離し、洋上と地上で初めて回収した。一方、失敗もあった。ロケットが発射台の上や軌道に向かう途中で爆発したのだ。

 

こうした失敗は、大きな技術開発では驚くにはあたらない。だが、火星に人を送るのは、地球軌道に送るのとも、月に送るのとも全く異なる挑戦だ。目標が「ほんの数回行ければいい」という程度でないのなら、なおさらハードルは高い。彼は、

 

我々が避けたいのは、アポロ計画の繰り返しです。たった何人かを送るミッションを数回やって、あとは二度と行かないということは望んでいません。それでは、多惑星を人の住みかにするという目標の達成にはなりません

 

と述べる。自立した第2の居住地を太陽系の中に作るという彼の最終的な構想は、壮大で高遠だが、決して独創的というわけではない。長きにわたって作られてきたSFとの違いは、彼の計画が本当に実現可能かもしれないという点だ。ただし、理想とする水準までコストを下げられればという条件がつく。

 

 IACでの委員会で、NASAのチャーリー・ボールデン長官は

「事業家の皆さんは、超音速の逆推進など、我々が考えながらもまだ準備ができていない問題を検討できています」

と評価した。

 

だが火星が実際の行き先になるには、輸送費用を約20万ドル(約2000万円)にまで下げる必要があるとマスクは言う。米国の平均的な住宅価格と同程度だ。それでも、現在見積もられているコストより大幅に安いのだという。

彼は自社だけで全て成し遂げられるとは期待していない。

 

政府や民間産業との、何らかの相乗的関係が不可欠

 

と述べている。

 

この分野の大きな目標に向けられている民間の活力からも、政府資源からも、できる限り多くを得たいと考えています。どちらかの資金源がなくなっても事業を続けられるように

 

しかし、課題もある。異なるマネジメント手法やリスクの引き受け能力、資金源をまとめること、古い画一的な開発ロードマップに従っていることなどが立ちはだかるのだ。マスクはTeslaなど別の企業においても提携、または買収した企業に対して自社の製品にフルコミットすることを強要し、その結果他社との関係悪化、という事態も少なからず起こしてきた。

 

ではどうすれば、それらすべてがうまく機能するのだろうか。

例えば、2020年代に火星に到着するには、当社は技術面で多少の活を入れられる必要がある。シミュレーションで使われた巨大なロケットは、現時点で同社が持つどのロケットよりはるかに強力だ。ファルコン・ヘビーの名で知られ、火星への大きな足掛かりとなる未来型のロケットだが、最初の打ち上げはもう何年も延期されている。

マスク自身もスケジュールについて

 

良く言っても不透明

 

と認めているが、このような遅れは、宇宙政策の専門家がマスク氏の計画に懐疑的な理由の1つだ。

 

「過去の実績に照らせば、『そうだね、彼は今まであらゆる目標期日を達成できなかったけど、今度は大丈夫だよ』とは言えません。ですから合理的な姿勢としては、『実行できれば信じる』ということになります」と専門家は語る。

 

人類が本当に火星に行くことができたら、その快挙ではずみがつき、さまざまな発展を後押しすると彼は考えている。かつて栄光や金、香辛料を求めた冒険家たちが、造船技術や世界の産業を発展させたのと同じだ。

やがては、こうした努力により火星はSFの世界から抜け出し、困難と危険でいっぱいの世界から、マスク氏も含めた人々が生活を楽しめる世界へと変わるだろうというのが、彼の考えだ。

 

火星は素晴らしい行き先になるでしょう。無限の可能性がある惑星になりますよ

 

火星移住を現実のものにするにはあまりにも技術や資金が足りないというのが現在の状況ではあるが、過去の回で述べてきたNeuralink、Boring Company、 Solar City、Tesla、Open AIを見ると、マスクが今まで起こしてきた実現不可能とも言える事業はどれも成功への道を歩みつつある。

 

彼ならば今まで人類がなし得なかった他惑星移住も我々が生きている間に実現するのかもしれない。

 

Space X のもう一つの事業

 

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当社は、「火星に人間が住むことを可能にする」という壮大な目標のもとで設立され、「宇宙植民地」の夢をもち続けてきた。だが同社は、地球上の生活までも改善しようと試みている。

 

あらゆる土地に高速なインターネットアクセスを提供するために、1万1,943基もの人工衛星を打ち上げることを目指しているのだ。

 

Space Xが米国連邦通信委員会(FCC)に提出した資料によると、当社はこれらの人工衛星を使って、ネットにアクセスできていない世界人口の57%を含むあらゆる人たちをオンラインにすることで、「本物」のワールド・ワイド・ウェブをつくることを目指している。

 

これまで人工衛星を利用したネット接続サービスは、成功するような事業ではなかった。過去にチャレンジしたイリジウムやスカイブリッジなどの企業は、いずれも姿を消したか破産手続きに入っている。彼はその前例を変えたいと考えているが、同じ考えをもっているのは何も彼だけではない。OneWebというスタートアップは2018年、手始めに600基を上回る最初の人工衛星を打ち上げる予定だ。Facebookも「Internet.org」通じて、ネットにアクセスできていない人々への接続サーヴィス提供に資金投下している。

 

しかし、当社が大量の人工衛星を打ち上げる目的として、もう一つの理由が考えられるという。それは販売用の写真を撮影することだ。

 

衛星から撮った地球の画像や分析データを販売する地球観測ビジネスは好調で、Planetのような新興企業でひしめき合っている。同社は現在、民間としては最大規模の人工衛星ネットワーク(149基)を擁しているが、それもほかのスタートアップによってすぐにリプレイスされるだろう。ここにSpace Xのような有名企業が参入すれば、1万を超える人工衛星群に地球を撮影する装置を搭載し、瞬く間に新興企業を押しつぶしてしまうかもしれない。

 

いまのところ当社は、人工衛星にカメラを搭載する計画については明らかにしていない。そしてマスク自身も、その可能性についてコメントすることも、社内のエンジニアにインタヴューを許可することも拒否している。にもかかわらず、人工衛星にカメラを搭載するといういくつかの兆候がある。スペースXが2019年初頭に打ち上げを計画している、4,425基の最初の衛星群は、地表からかなり上空を周回する予定だ。これは、地球を撮影するには遠すぎる距離だ。しかし、約7,500基の第2の衛星群は地表から350kmから400kmと、人工衛星としては非常に低い高度に打ち上げられる。

 

地表に近ければ近いほど引力の影響は増加し、衛星は高度を維持できなくなる。大気圏で燃え尽きるのを避けるために、頻繁に軌道を調整する手間も生じる。にも関わらず低軌道に打ち上げるのは、インターネット接続の安定と高速化だけでなく、撮影にも役立つからだと推測される。

 

ネット接続サービスと撮影という「二重の目的」には、課題もある。当社のビジネスの大部分は商業用通信衛星の打ち上げによるものだが、もし同社が独自の衛星群を打ち上げれば、顧客との競合になると予想される。他社との契約には、Facebookが主導するInternet.orgへの衛星供給案件も含まれる。

Space Xの思惑は置いといても、ネットワーク事業そのものはとても有意義で魅力的なものに見える。火星移住事業より実現可能性は高そうなので、ぜひ早いうちに実現してほしい。

 

最後に

全10回に渡って世界最高の起業家、イーロンマスクの手がけるプロジェクトについて見てきた。どの事業もまだ完全な成功をおさめた訳ではないにも関わらず、彼が世界中の人を魅了し、そこに実現可能性を感じるのは、彼が常に人々がワクワクするような大きな夢を世界に発信し続けてきたからだろう。

 

彼はよくビルゲイツやスティーブジョブズと比較されるが、彼には他の二人がなし得なかった「持続可能なエネルギー開発」というとてつもなく大きなことを成し遂げようとしている。

 

次は彼はどんなことで人々を驚かせてくれるのだろうか。目が離せない。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。